光デバイス

13.アバランシェフォトダイオードの雑音

 光検出器としてのフォトダイオードにとって、雑音は大きな問題です。「雑音」というと「邪魔になるうるさい音」といったイメージかも知れませんが、電気の世界では音以外の電気や光の信号についても「雑音」という言葉を使います。真に伝えたい信号に混じって邪魔をしたり乱したりするものを言います。「雑音」がよくなければ「ノイズ」という英語を使ってもよいでしょう。

 フォトダイオードの雑音についてはこれまで触れませんでしたが、信号としての光が入射したとき発生する電流には、光の信号がそのまま置き換えられた電気信号に加えて雑音が混じってきます。信号を受信する人は雑音を信号であるかのように間違う恐れがあります。とくにフォトダイオードを弱い微かな光の検出に使う場合には、雑音によって光が無いのに有ると判断されてしまうかも知れません。このためフォトダイオードの雑音はできる限り取り除く必要があります。

 前に取り上げた暗電流も光が無いのに流れるので、広い意味では雑音と言ってもよいと思いますが、ここで取り上げるのはこれとは違う現象です。

(1)ショット雑音

 まず光電流はこれまで説明してきたように空乏層内を動く電子または正孔によって流れます。普通は光の入射によってフォトダイオードの空乏層内に非常に多くの電子−正孔対が発生します。これら電子や正孔の1つ1つを見ると、全部が整然とまったく同じに動くわけではありません。電子や正孔は並んでいる原子の間を動き、ときには原子と衝突して方向が変えられてしまいます。このため電子や正孔の1つ1つは方向も速度もまちまちです。光電流はこのばらばらな動きの平均として観測されるものですから、瞬間瞬間をみると光が一定の強さであっても光電流は細かく変動しています。これがつまりは雑音であり、ショット雑音と呼ばれています。

(2)熱雑音

 フォトダイオードはそれだけでは何の役にも立ちません。必ず負荷抵抗やアンプを外につないで光電流を検出しなければなりません。このような抵抗器などの中でも電子が動いていますが、この動きは温度が絶対零度でもない限り、熱によって乱されます。このため電子全体の動きの平均として観測される電流には変動が発生します。この変動も雑音となります。これを熱雑音と言います。

 ショット雑音も熱雑音も以上のように電子や正孔の動きの乱れ(ゆらぎといいます)が原因なので、どんなフォトダイオードでも発生します。またフォトダイオードに限らず、光に関係しないあらゆる半導体デバイスにも発生し、減らすのが難しい雑音です。

(3)APDの過剰雑音

 アバランシェフォトダイオード(APD)には上記以外に特有の雑音が発生します。特別に発生するので過剰雑音と呼ばれています。この雑音は電子雪崩に原因があります。電子雪崩は加速された電子または正孔が原子に衝突してつぎつぎに電子、正孔を発生させる現象ですが、原子との衝突が起きる時間は一つずつまちまちで、衝突が起きると電子、正孔が発生するので、電流が変化します。この電流の変動が雑音となります。これは電子雪崩が起きると発生するので、APD特有の雑音です。これがあるためAPDはpinフォトダイオードより雑音が多いことになります。

 ところでこのAPDの過剰雑音は半導体の種類によってかなり大きさが違うことがわかっています。例えばシリコンの場合は雑音が少なく、ゲルマニウムの場合は多いという結果が得られています。これがなぜなのかを次に説明します。

 シリコンは電子が原子に衝突すると電子と正孔がよく発生しますが、正孔はほとんど電子、正孔を発生させることができないという性質があります。原子から電子、正孔が発生するということは、原子が電荷をもつということですから、これをイオン化という言葉で表現しています。この言葉を使って上のことを言い直すと、シリコンは電子によるイオン化は起きやすいが、正孔によるイオン化は起きにくい、となります。

 一方ゲルマニウムは電子によっても正孔によっても同じくらいイオン化が起きることが知られています。

 11の電子、正孔の動きを示す図をもう一度示します(図13−1)。この図は電子も正孔もイオン化を起こしていますから、ゲルマニウムの場合に相当します。それではシリコンの場合はどうかというと図13−2のようになります。

 この2つの図を見比べると、シリコンの場合は、a→b→cという衝突、イオン化が起こるだけで、正孔は発生してもそのまま外へ出て行くだけです。ところがゲルマニウムの場合は、発生した正孔がイオン化を起こすので、さらにd、e・・・と際限なくイオン化が続きます。

 衝突、イオン化のたびに電流が変動し、それが雑音になるわけですから、シリコンは過剰雑音が少なく、ゲルマニウムは多いということが理解できると思います。InGaAsはどうかというとどうやらこの中間的な特性のようです。シリコンは波長が1μmより長くなると使えませんから、何とかGeかInGaAsのような材料で過剰雑音を減らしたいところです。このための工夫については次節で紹介します。