光デバイス

18.その他のトピックス

 受光素子の周りには何故か普段あまり注目されませんが、特別な機能をもった素子や興味深い応用分野が多いように思います。以下の節では、1〜17節に収まりきれなかった受光素子に関する話題を取り上げます。

18−1.放射線検知素子

(1)放射線とは何か

 歴史的にみれば、19世紀末にウランやラジウムといった元素から何か物を透過する性質をもったビームが出ていることが見つかりました。発見者はウランがA・H・ベクレル、ラジウムがM・キュリーです。このビームが放射線と呼ばれるようになりました。その後、この放射線には3種類があることがわかり、A・ラザフォードは物を透過する程度が低い順にα(アルファ)線、β(ベータ)線、γ(ガンマ)線と名付けました。

 この3つの名前α、β、γはまだその実体がわからない段階で、仮に名付けられたようなものですが、実体が解明された後もそのまま残っています。その実体は何かというと、α線はヘリウムの原子核で、陽子2個を含むため、プラスの電荷を持っています。β線は電子線で、マイナスの電荷をもっています。γ線は電磁波です。

 ウランやラジウムは多数の陽子と中性子からなる重い原子核をもっています。重い原子核は壊れやすく時間が経つにつれて別の元素に変わっていきます。これを原子核の崩壊といいますが、このときにα線、β線、γ線の3種類の放射線が外に放出されます。ウランやラジウムは自然界にある元素ですから、この3種の放射線も自然界で観測できるものです。

 しかし例えばα線より単純な陽子1個の陽子線とか中性子1個の中性子線なども原子炉などで作れます。またγ線と同じ電磁波のX線はよく知られています。放射線という言葉は最初は原子から何か出ているという歴史的発見の過程で使われましたが、人工的であっても原子から出るものなら、光(電磁波)も粒子(粒子線)も含めた広い概念で放射線と言ってよいと思います。

 日常生活ではα線、β線、γ線には馴染みがないと思いますが、X線だけは医療をはじめとしてよく利用されています。半導体の分野でも結晶構造の解析や不純物の分析などに広く活用されています。この代表的なX線のエネルギーは10KeV(1万eV)程度、波長にすると0.1nm前後です。これは可視光の1万倍近くの非常に大きなエネルギーです。

 もう少し付け加えると、X線は紫外線より波長の短い光であり、紫外線との境界は波長にして数10nm、エネルギーで言えば数10eVのところにあります。高いエネルギー側は100KeV(=10万eV)、波長にして0.01nmくらいまでがX線の範囲です。γ線はさらにこれより高いエネルギー(短い波長)のものを言います。ただしγ線とX線の区別は波長ではなく、原子核の崩壊などに起因するものがγ線で、原子核の周りを回る電子がエネルギーを失うときに出るのがX線という分け方が正しいようです。

(2)シンチレーション検出器

 この放射線を検知するのが放射線検知素子ですが、最初は光の検知と同じように光電管(光電子増倍管)を使うことが考えられました。ただし放射線を直接カソードに当ててもエネルギーが高過ぎてカソードを透過してしまいうまくいきません。そこで考えられたのがシンチレータです。これは放射線を受けると可視光を出す性質をもった物質です。蛍光体の一種と言ってもよいと思います。シンチレーション(scintillation)は一般用語では閃光とかきらめきとかといった意味だそうです。

 放射線検出に使われるシンチレータにはいろいろな種類がありますが、例えば無機物ではNaIとかCsIといったNaClと同類のイオン結晶にタリウム(Tl)などの不純物をドープしたもの、有機物ではアントラセンなどが知られています。NaIなどは可視光に対しては透明で、可視光を当てても電子−正孔対はできませんが、X線などの放射線を当てれば電子−正孔対ができます。図18−1に示すように伝導帯に励起された電子は中に含まれる不純物の準位に一旦落ち、そこから価電子帯に落ちて正孔と再結合し発光します。この不純物の準位と価電子帯のエネルギー差がちょうど可視光のエネルギーになるように不純物の種類を選んでドープした物質がシンチレータです。

 このシンチレータを光電子増倍管の前に置いて、出てきた可視光を検知すれば間接的に放射線を検知できます。これをシンチレーション検出器と言います。同じことが光電子増倍管の代わりにフォトダイオードなどの半導体受光素子を使ってできることはすぐに思い付くことです。フォトダイオードの上にシンチレータの結晶を貼り付ければよいわけです。

 さらにはフォトダイオードの受光面の上にシンチレータになる物質の膜を直接着けることが考えられます。ここで問題になるのは半導体受光素子の上にNaIなどの単結晶を成長させることは難しいということです。しかし単結晶でなくても蛍光が出ればよいので、図18−2のように膜を着けて放射線検出器としたものが考えられています(特開昭59-55075号より)。

 フォトダイオードはp型シリコン基板1の表面にn型領域4を形成したものです。もちろんpinフォトダイオードでも構いません。表面電極5は透明電極です。その上にヨウ化セシウム(CsI)の蛍光膜7が着けられています。不純物は書かれていないのでわかりませんが、タリウムなどが含まれていると思われます。表面電極5と裏面電極6の間にpn接合が逆バイアスになるように電圧をかけ空乏層10を作った状態でX線などの放射線を表面側から入射させると、蛍光膜は可視光を出し、この可視光は透明電極を透過して空乏層に達し電子−正孔対ができます。

(3)半導体X線検知素子

 シンチレータを使わずに、シリコンなどのフォトダイオードに直接X線を当てたらどうなるでしょうか。これを調べようと普通の半導体の教科書を開いてもまず書いてありません。意外と盲点だったのかも知れません。

 フォトダイオードの材料を選ぶに当たってバンドギャップエネルギーの値が重要なことは何度も繰り返してきました。検知しようとする光のエネルギーよりバンドギャップエネルギーが大きいと光は吸収されず透過してしまうので検知できません。一方、光のエネルギーの方がバンドギャップエネルギーより大きければ、光は吸収され、検知されますが、光のエネルギーが大き過ぎると光はほとんど表面付近で吸収されてしまうので、発生した電子や正孔は半導体内部の電界によって移動する前に消滅してしまい、うまく検知しにくいと説明してきました。例えば特表2000-510849号にはいろいろなエネルギーの光を90%吸収するのに必要なシリコンの厚みの数値表が載っています。可視光では2μm、紫外光では0.02μmとなっていて上記の説明の通りです。

 この話をそのまま延長すると、普通の半導体のバンドギャップエネルギーより桁違いに大きいエネルギーをもつX線を検出するなど半導体では不可能といことになります。ところが「そのまま延長」して考えることが間違いだったのです。上記特許の表によると10keVのX線を90%吸収するシリコンの厚さは300μmと急に大きくなっています。X線をシリコンに当てると、表面で吸収されるどころかかなり厚い層を透過することを示しています。これはなぜなのでしょうか。

 シリコンを例にすると、シリコンの室温でのバンドギャップエネルギーは約1.1eVですから、これより少し大きいエネルギーをもった光(波長で言えば約1.1μmより短い光)が当たると電子−正孔対が発生し、光は消滅します。ここで光も粒子と考え、1つの電子−正孔対が発生したときには1個の光子(フォトン)が当たったと考えます。

 光子のエネルギーがバンドギャップエネルギーの数倍程度までの範囲では、つまり可視光や紫外光の場合には、起こることは同じです。できる電子と正孔のもつエネルギーが少し高くなるだけで、電子は伝導帯の少し高いところへ上がります。やがて余分なエネルギーは熱エネルギーなどに変わって失われ、電子のエネルギーは伝導帯の一番下へ下がってきます。

 しかしX線などのバンドギャップエネルギーの数千倍から数万倍のエネルギーをもったX線などが当たると、1つの電子−正孔対ではこの全エネルギーを受け取りきれません。言い換えるとそんなに高いエネルギーをもった電子を収容できる伝導帯はありません。

 このような場合、残ったエネルギーはさらに別の電子−正孔対を作ることに使うことができます。1個の光子が複数の電子−正孔対を作るようになります。表面にある原子に光が当たりその原子がもつ価電子を引きはがし、これでまず電子−正孔対が1個できます。光が可視光だとそれが精一杯で、光子は全エネルギーを失って消滅します。しかしX線だとまだほとんどのエネルギーは残っていますから、X線は結晶の中に入り次の原子に当たってそこでまた電子−正孔対を作ります。それでもまだエネルギーが残っていて、さらに奥に進み、また電子−正孔対を作ります。これを繰り返し多数の電子−正孔対が次々に作られます。X線が結晶の裏側に達してもまだエネルギーが残っていれば結晶を透過して裏側から出て行くことになります。

 図18−3はpn接合フォトダイオードによる放射線検出を示す図です(特開昭59-52884号より)。シリコン基板1の表面に拡散層2を作り、pn接合ダイオードを形成します。電極3と4に逆バイアス電圧をかけると、空乏層5が広がります。ここに放射線Rが入射すると図のようにその侵入路に沿って電子−正孔対がたくさんでき、これが流れて電流となり検出されます。

 実は古くから使われている放射線検出器のガイガー・ミュラー管でも原理はこれとほぼ同じです。ガイガー・ミュラー管では管の中にアノードとカソードの電極を入れ、アルゴンなどのガスを詰めてあります。図18−3の電極3と4の間をガスの入った空間とみれば同じ構造です。外から放射線が入りガス分子に衝突すると、ガス分子から電子が発生します。放射線は何回も分子と衝突を起こし、そのたびに電子を発生させます。この電子はアノードに向かって動き、電流として観測されます。ガス分子からの電子発生には個体中での電子−正孔対発生より大きなエネルギーが必要なため、可視光では同じことは起こりません。

 ガスでも半導体でも同じですが、以上説明したことが起こると入射した光子の数を計ることができます。シリコンでは1個の電子−正孔対を作るのに必要な光子のエネルギーは約3.6eVとわかっています。シリコンのバンドギャップエネルギーは1.1eVですが、これよりかなり高いエネルギーでも1個の電子−正孔対しかできません。1個の電子−正孔対を作る平均のエネルギーはバンドギャップエネルギーの約3倍程度になります。

 このシリコンに例えば36keVのX線を当てたとします。このX線が透過せず全部有効に使われたとすると、ちょうど1個の光子から1万個の電子−正孔対ができることになります。フォトダイオードの出力電流から流れた電子の数を計ることができますから、逆算すれば何個の光子が入射したかが分かります。この方法のことを光子計数法(フォトンカウンティング法)と言います。逆に光子の数(光の強度)がわかっていれば、X線のエネルギー(波長)を計ることもできます。

 このようにX線を透過しないようにすべて吸収するためには半導体層を厚くする必要があります。上記の数値によれば、10keVのX線の検出用には300μmの厚みの空乏層が必要となります。この点が普通の可視光用フォトダイオードと違う点です。空乏層幅を厚くするためにはpinフォトダイオードの方が有利と思われます。

 非常に高いエネルギーの光が原子に当たると実際には単に価電子を飛び出させるだけでなくいろいろ複雑な現象が起きます(例えば特開平1-77969号参照)。X線などの高いエネルギーをもった光は原子の内部にまで入り込むことができ、価電子だけでなく原子核に近い内側の電子を弾き出すこともできます。ただこのような場合でも飛び出した電子が別の原子と衝突し、電子−正孔対を作るので、途中はどうあれ最終的には上記のように1個の光子から多数の電子−正孔対ができることになります。

(4)半導体素子によるX線以外の放射線の検出

 以上、X線についての検出原理を説明しましたが、他の放射線も半導体による検出ができるでしょうか。

 まずγ線はX線と同じ光ですから、同様に検出できます。X線よりエネルギーが高いので、1個の光子からできる電子−正孔対の数はさらに多くなります。α線やβ線は粒子線ですが、電荷をもっているので原子と衝突して電子−正孔対を発生できます。基本的にはX線検出と同じように検出することができます。

 一つ問題なのは中性子線の検出です。電荷をもたない中性子は光電効果を起こさず、半導体中に入ってもそのまま通り抜けてしまいます。そこで中性子の場合は、シンチレータのように間接的な方法を採らざると得ません。中性子は水素原子と衝突すると陽子が発生することが知られています。そこで中性子線を水素を多く含む物質に当て、出てくる陽子線を半導体検出器で捉えるという方法があります。図18−4は水素を多く含む物質としてポリエチレン板8をフォトダイオードの前に置き、中性子線を陽子線に変えて検出している例です(特開昭56-148873号)。硼素(B)に中性子を当てるとα線が出るという核反応を利用する方法もあります。